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Column ・ 宇宙のはなし

スマホの地図も、明日の天気も。
──暮らしを支える「人工衛星」のはなし

今日あなたは、何回くらい宇宙のお世話になったでしょうか。天気予報、地図アプリ、テレビ、宅配便の到着通知。そのどれもが、頭上数百キロから数万キロを飛ぶ機械に支えられています。

宇宙のはなし2026.08.25読了 約6分
📖 読み方を選べます。お子さまには こども版(ふりがな) がおすすめです。

朝、スマホで天気を確かめる。知らない駅から地図アプリを頼りに歩く。夜、録りためた番組を見る。——そのすべてが、頭の上にいる機械に支えられています。人工衛星です。ロケットやアルテミス計画にくらべると地味な存在ですが、じつは私たちの生活にいちばん深く入り込んでいる「宇宙」は、まちがいなくこれ。今日は、その正体をのぞいてみましょう。

宇宙から見た、私たちの地球。この青い星のまわりを、いま何千もの人工衛星が回り続けています。※イメージ映像

そもそも、なぜ落ちてこないの?

人工衛星は、宇宙に「浮かんで」いるわけではありません。正確に言えば、ずっと落ち続けていますただし、あまりにも速く横向きに進んでいるため、落ちるカーブと地球の丸みがぴったり一致し、いつまでたっても地面に届かない。それが「回っている」の正体です。

ボールを水平に投げると、少し先の地面に落ちます。もっと強く投げれば、もっと遠くに落ちる。では、とてつもなく強く投げたら? 落ちる先が地平線のむこうへ、さらにむこうへとずれていき、ついには地球を一周して自分の背中に戻ってきます。この「とてつもなく強く」の目安が、地表近くで秒速およそ7.9km新幹線の約90倍です。

豆知識①

宇宙飛行士がふわふわ浮かんでいる映像から、「宇宙には重力がない」と思われがちですが、これは誤解です。国際宇宙ステーションの高さでも、地上の約9割の重力がはたらいています。浮いて見えるのは、ステーションも人もいっしょに落ち続けているから。下降するエレベーターの中で体が軽く感じる、あれをずっと続けている状態です。

高さによって、役目が変わる

人工衛星は、どこを飛ぶかで性格がまるで変わります。地球に近いほど速く回り、遠いほどゆっくり回る。この単純な物理が、衛星の「職業」を決めています。

地球のまわりの3つの軌道。低軌道は高さ約400km・約90分で1周、中軌道は約2万km・約12時間で1周、静止軌道は約35,786km・24時間で1周
高さが変われば、1周にかかる時間も、できる仕事も変わります。※イメージ図(距離の比率は実際とは異なります)
  • 低軌道
    約300〜1,000km
    約90分で地球を1周。地表に近いので、写真は鮮明、通信の遅れもわずか。国際宇宙ステーションや、地球観測衛星、近年急増した通信衛星群がここにいます。ただし1機で見えるのは地球のごく一部なので、数をそろえる必要があります。
  • 中軌道
    約2万km
    約12時間で1周。広い範囲を見わたせて、数もそこそこで足りる。カーナビやスマホの位置情報を支える測位衛星の指定席です。
  • 静止軌道
    約35,786km
    ちょうど24時間で1周するため、地球の自転と歩調が合い、地上から見ると空の一点に止まって見えます気象衛星や放送衛星がここ。アンテナを動かさなくていいのは、このおかげです。
豆知識②

「高度35,786kmに置けば衛星は止まって見える」というアイデアを1945年に発表したのは、科学者ではなくSF作家のアーサー・C・クラークでした(『2001年宇宙の旅』の原作者)。実現したのは、それから約20年後。空想が先に道をつけた、気持ちのいい例です。

私たちの一日は、衛星でできている

ここからは、実感の話です。ふだん意識しないだけで、衛星はもう生活のインフラになっています。

天気予報。静止気象衛星「ひまわり」は、日本のはるか上空から雲の動きを絶え間なく撮り続けています。台風の進路予測も、ゲリラ豪雨の警戒も、まずここから始まります。

スマホの地図。位置がわかるのは、複数の測位衛星から届く電波の「到着時刻のわずかな差」を、端末が計算しているから。日本には準天頂衛星「みちびき」もあり、ビルの谷間でも測位が安定しやすくなっています。

テレビ、船や飛行機の通信、災害対応。衛星放送はもちろん、基地局を置けない海の上でも通信が届くのは衛星のおかげ。大きな災害が起きたとき、まず被害の全体像をつかむのも観測衛星の役目です。雲や夜を突き抜けて地表を見られるレーダー衛星は、悪天候の被災地でも状況を把握できます。

豆知識③

測位衛星の時計は、相対性理論の補正を受けています。速く動くと時間は遅れ、重力の弱い高い場所では時間が進む。差し引きすると衛星の時計は地上より1日あたり約38マイクロ秒だけ速く進み、これを直さずに放っておくと、位置のずれは1日で10km規模にふくらみます。アインシュタインの理論は、毎日あなたのスマホの中で働いています。

宇宙から見た地球の、青くうすい大気の層
宇宙から見た地球のふち。青く光る大気の層は、驚くほど薄いものです。低軌道の衛星は、この層のすぐ外側を回っています。画像:NASA

役目を終えた、そのあとに

便利さの裏側には、宿題もあります。衛星は永遠には使えません。燃料が尽き、部品が古くなれば引退します。問題は、引退しても軌道からは勝手にいなくならないこと。放置された機体は、そのまま高速で回り続ける「宇宙のごみ」になります。

そこで今は、最後の燃料を残しておき、低軌道の衛星は大気圏に落として燃やし尽くす静止軌道の衛星は少し高い「墓場軌道」へ移す、という後始末が国際的なルールとして定着してきました。宇宙を使い続けるための、あたりまえのマナーです。この話は、スペースデブリの回でくわしく取り上げています。

見上げれば、そこにいる

最後に、ひとつ試してみてほしいことがあります。日没から1〜2時間ほどのあいだ、空の暗いところで見上げてみてください。点滅せず、音もなく、すーっと一定の速さで動いていく光の点。それは飛行機ではなく、人工衛星です。地上はもう暗いのに、高いところを飛ぶ衛星にはまだ太陽が当たっている。その反射光が見えているのです。

とくに明るく、堂々と横切っていくものがあれば、国際宇宙ステーションかもしれません。あの光の中に、いま人がいる。そして無数の小さな光が、今日もあなたの天気予報と地図を運んでいる。宇宙は、思っているよりずっと近くで働いています。

RODEN & SPACE

宇宙を、“遠い話”で終わらせない。

ローデンは、宇宙ミュージアム「ソラミル」の運営や、スペースポート高知への参画、スマホで月面を歩く月面歩行AR宇宙食開発や「宇宙縁日」などのイベントを通じて、宇宙を身近なワクワクに変える取り組みを進めています。

このコラムでも、宇宙やロケット、そしてミライの話を、これからやさしくお届けしていきます。