朝、スマホで天気を確かめる。知らない駅から地図アプリを頼りに歩く。夜、録りためた番組を見る。——そのすべてが、頭の上にいる機械に支えられています。人工衛星です。ロケットやアルテミス計画にくらべると地味な存在ですが、じつは私たちの生活にいちばん深く入り込んでいる「宇宙」は、まちがいなくこれ。今日は、その正体をのぞいてみましょう。
宇宙から見た、私たちの地球。この青い星のまわりを、いま何千もの人工衛星が回り続けています。※イメージ映像
そもそも、なぜ落ちてこないの?
人工衛星は、宇宙に「浮かんで」いるわけではありません。正確に言えば、ずっと落ち続けています。ただし、あまりにも速く横向きに進んでいるため、落ちるカーブと地球の丸みがぴったり一致し、いつまでたっても地面に届かない。それが「回っている」の正体です。
ボールを水平に投げると、少し先の地面に落ちます。もっと強く投げれば、もっと遠くに落ちる。では、とてつもなく強く投げたら? 落ちる先が地平線のむこうへ、さらにむこうへとずれていき、ついには地球を一周して自分の背中に戻ってきます。この「とてつもなく強く」の目安が、地表近くで秒速およそ7.9km。新幹線の約90倍です。
豆知識①
宇宙飛行士がふわふわ浮かんでいる映像から、「宇宙には重力がない」と思われがちですが、これは誤解です。国際宇宙ステーションの高さでも、地上の約9割の重力がはたらいています。浮いて見えるのは、ステーションも人もいっしょに落ち続けているから。下降するエレベーターの中で体が軽く感じる、あれをずっと続けている状態です。
高さによって、役目が変わる
人工衛星は、どこを飛ぶかで性格がまるで変わります。地球に近いほど速く回り、遠いほどゆっくり回る。この単純な物理が、衛星の「職業」を決めています。
高さが変われば、1周にかかる時間も、できる仕事も変わります。※イメージ図(距離の比率は実際とは異なります)
- 低軌道
約300〜1,000km約90分で地球を1周。地表に近いので、写真は鮮明、通信の遅れもわずか。国際宇宙ステーションや、地球観測衛星、近年急増した通信衛星群がここにいます。ただし1機で見えるのは地球のごく一部なので、数をそろえる必要があります。
- 中軌道
約2万km約12時間で1周。広い範囲を見わたせて、数もそこそこで足りる。カーナビやスマホの位置情報を支える測位衛星の指定席です。
- 静止軌道
約35,786kmちょうど24時間で1周するため、地球の自転と歩調が合い、地上から見ると空の一点に止まって見えます。気象衛星や放送衛星がここ。アンテナを動かさなくていいのは、このおかげです。
豆知識②
「高度35,786kmに置けば衛星は止まって見える」というアイデアを1945年に発表したのは、科学者ではなくSF作家のアーサー・C・クラークでした(『2001年宇宙の旅』の原作者)。実現したのは、それから約20年後。空想が先に道をつけた、気持ちのいい例です。
私たちの一日は、衛星でできている
ここからは、実感の話です。ふだん意識しないだけで、衛星はもう生活のインフラになっています。
天気予報。静止気象衛星「ひまわり」は、日本のはるか上空から雲の動きを絶え間なく撮り続けています。台風の進路予測も、ゲリラ豪雨の警戒も、まずここから始まります。
スマホの地図。位置がわかるのは、複数の測位衛星から届く電波の「到着時刻のわずかな差」を、端末が計算しているから。日本には準天頂衛星「みちびき」もあり、ビルの谷間でも測位が安定しやすくなっています。
テレビ、船や飛行機の通信、災害対応。衛星放送はもちろん、基地局を置けない海の上でも通信が届くのは衛星のおかげ。大きな災害が起きたとき、まず被害の全体像をつかむのも観測衛星の役目です。雲や夜を突き抜けて地表を見られるレーダー衛星は、悪天候の被災地でも状況を把握できます。
豆知識③
測位衛星の時計は、相対性理論の補正を受けています。速く動くと時間は遅れ、重力の弱い高い場所では時間が進む。差し引きすると衛星の時計は地上より1日あたり約38マイクロ秒だけ速く進み、これを直さずに放っておくと、位置のずれは1日で10km規模にふくらみます。アインシュタインの理論は、毎日あなたのスマホの中で働いています。
宇宙から見た地球のふち。青く光る大気の層は、驚くほど薄いものです。低軌道の衛星は、この層のすぐ外側を回っています。画像:NASA
役目を終えた、そのあとに
便利さの裏側には、宿題もあります。衛星は永遠には使えません。燃料が尽き、部品が古くなれば引退します。問題は、引退しても軌道からは勝手にいなくならないこと。放置された機体は、そのまま高速で回り続ける「宇宙のごみ」になります。
そこで今は、最後の燃料を残しておき、低軌道の衛星は大気圏に落として燃やし尽くす、静止軌道の衛星は少し高い「墓場軌道」へ移す、という後始末が国際的なルールとして定着してきました。宇宙を使い続けるための、あたりまえのマナーです。この話は、スペースデブリの回でくわしく取り上げています。
見上げれば、そこにいる
最後に、ひとつ試してみてほしいことがあります。日没から1〜2時間ほどのあいだ、空の暗いところで見上げてみてください。点滅せず、音もなく、すーっと一定の速さで動いていく光の点。それは飛行機ではなく、人工衛星です。地上はもう暗いのに、高いところを飛ぶ衛星にはまだ太陽が当たっている。その反射光が見えているのです。
とくに明るく、堂々と横切っていくものがあれば、国際宇宙ステーションかもしれません。あの光の中に、いま人がいる。そして無数の小さな光が、今日もあなたの天気予報と地図を運んでいる。宇宙は、思っているよりずっと近くで働いています。
RODEN & SPACE
宇宙を、“遠い話”で終わらせない。
ローデンは、宇宙ミュージアム「ソラミル」の運営や、スペースポート高知への参画、スマホで月面を歩く月面歩行AR、宇宙食開発や「宇宙縁日」などのイベントを通じて、宇宙を身近なワクワクに変える取り組みを進めています。
このコラムでも、宇宙やロケット、そしてミライの話を、これからやさしくお届けしていきます。

星野館長やあ、ようこそ! 今日は「人工衛星」のお話だよ。じつはね、きみは今日もう何回も、宇宙に助けてもらっているんだ。

ソラくんええっ!? ぼく、今日はずっとおうちにいたよ!?

星野館長ふふ、あさ「今日のお天気」を見なかったかい? あれもね、空のずーっと上にいる機械が雲のしゃしんを送ってくれているんだよ。
宇宙から見た、わたしたちの地球。このまわりを、たくさんの人工衛星がぐるぐる回っているんだよ。※イメージ映像
どうして、落ちてこないの?
人工衛星はね、じつは今も落っこちているんだ。でも、すごーくはやく横にすすんでいるから、落ちても落ちても地面にとどかないんだよ。地球がまるいから、落ちる先がにげていっちゃうんだ。

キララボールをうんと強くなげたら、地球をぐるっと一周して、じぶんのせなかにもどってくるってこと!?

星野館長そのとおり! ただし、1秒で8キロメートルくらいすすむ速さがいるんだ。しんかんせんの90倍くらいだよ。
たかさで、おしごとがちがう
衛星はね、とぶ「たかさ」でおしごとがかわるんだ。地球に近いほどはやく回って、遠いほどゆっくり回るんだよ。
ひくいところ、まんなか、すごく高いところ。それぞれちがうおしごとをしているよ。※イメージ図
- ひくいところ約90分で地球を1周! 地面に近いから、しゃしんがくっきりとれるよ。
- まんなか約12時間で1周。スマホの地図で「いまここ」がわかるのは、この仲間のおかげ。
- すごく高いところ24時間で1周。地球が回るのとおなじだから、下から見ると止まって見えるんだ。

ピコとまって見えるの、ふしぎピコ……。いっしょに回ってるからなんだピコね。
くらしを、ささえてくれている
お天気よほう、スマホの地図、テレビ、海の上の船とのれんらく。ぜんぶ人工衛星のおかげなんだ。地震や台風のときに、どこがたいへんなのかをすぐ調べるのも衛星のおしごとだよ。

モグリン地球のみんなは、宇宙のなかまと力をあわせてくらしてるモグね〜!
宇宙から見た地球のはしっこ。青く光っているのが「空気のそう」。びっくりするほどうすいね。画像:NASA
おしごとが おわったら
衛星にも、いつか「おつかれさま」の日がくるんだ。でも、そのままにしておくと宇宙のごみになっちゃう。だから今は、さいごに地球におろして燃やしたり、じゃまにならない場所にうつしたりして、ちゃんとおかたづけをするんだよ。

キララつかったら、おかたづけ。宇宙でも、おうちでもおなじだね!
よぞらで、さがしてみよう
ゆうがた、お日さまがしずんで1〜2時間くらいのあいだ、空を見上げてみて。ちかちかしないで、すーっとまっすぐ動いていく光があったら、それは人工衛星かもしれないよ。

ソラくんあの光のなかに、人がいるんだ! 今夜さがしてみる!

星野館長今日のお話はここまで。また探検隊のなかまといっしょに、宇宙のひみつを見にいこうね!
SPACE & FUN
宇宙を、もっと身近(みぢか)に。
宇宙ミュージアムや「宇宙縁日(うちゅうえんにち)」などのイベントで、宇宙のワクワクをみんなに届けています。このコラムに出てくるキャラクターたちも、ぜんぶオリジナルの企画なんだよ。