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Column ・ 宇宙のはなし

1日が、1年より長い。
──夕空でいちばん明るい星、金星のはなし

大きさも重さも、地球とほとんど同じ。それなのに地表は約465℃、気圧は約92気圧。ひと回りするのに243日もかかり、おまけに自転は逆向きで、太陽は西から昇ります。

宇宙のはなし2026.09.15読了 約8分
📖 読み方を選べます。お子さまには こども版(ふりがな) がおすすめです。

夕方の西の空に、ひとつだけ、まわりと明るさの桁が違う星があります。金星です。大きさも重さも地球とほとんど変わらず、昔は「地球の双子」と呼ばれていました。ところが行ってみたら、そこは約465℃、約92気圧しかも1回転するのに243日かかり、その自転は逆向き——太陽は西から昇ります。そんな金星が、9月19日に最大光度を迎えます。

大きさは、地球のほぼ双子

金星の直径は約1万2100km地球(約1万2700km)の約0.95倍で、重さも約0.82倍です。前回ご紹介した土星木星のような「地球の何十倍」という世界ではなく、ならべてもほとんど見分けがつきません。太陽系のなかで、これほど地球とサイズの近い星はほかにありません。

太陽からの距離は約1億800万km。地球(約1億5000万km)より内側を回っている、お隣さんです。地球にいちばん近づくときの距離は約4000万kmで、これは太陽系の惑星のなかでもっとも近い接近になります。

金星と地球を同じ縮尺で並べた図。金星の直径は約1万2100kmで地球の約0.95倍、重さは約0.82倍、1回の自転は約243日で逆向き、1年は約225日、地表の温度は約465度、気圧は約92気圧、衛星は0個
金星と地球を、同じ縮尺でならべたところ。大きさだけを見れば、ほとんど双子です。※イメージ図

ところが、似ているのはそこまででした。1960年代以降、探査機がつぎつぎに金星へ送られ、分かってきたのは「双子」どころではない世界だったのです。

1日が、1年より長い

金星は、太陽のまわりを約225日で一周します。いっぽう、自分でくるりと1回転するのに約243日つまり金星では、「1日」のほうが「1年」より長いという、暦がひっくり返ったようなことが起きています。

さらに、その回転の向きが太陽系のほとんどの惑星と逆です。地球では太陽は東から昇って西へ沈みますが、金星では西から昇って東へ沈みます。なぜ逆向きになったのかは、大きな天体の衝突説や、分厚い大気が長い時間をかけてブレーキをかけたとする説などがあり、まだ決着していません。

豆知識①

ただし、金星の地表から見た「太陽が昇ってまた昇るまで」は243日ではなく約117日です。自転と公転が逆向きなので、おたがいの動きが打ち消しあって短くなるのです。それでも、朝がきてから次の朝がくるまでに地球の約4カ月——気の長い1日です。

465℃、92気圧、硫酸の雲

金星の地表は約465℃鉛(約327℃で溶けます)が溶けてしまう温度で、昼も夜も、赤道も極地も、ほとんど変わりません。太陽により近い水星よりも熱い、太陽系でいちばん熱い惑星です。

原因は大気です。金星の大気は約96%が二酸化炭素強力な温室効果で熱が逃げられなくなっています。その大気の重さもすさまじく、地表の気圧は約92気圧地球の海でいえば水深およそ900mに潜ったのと同じ圧力です。

金星の分厚い大気の断面図。高さ45kmから70kmに硫酸の雲の層があり、秒速約100メートルの風で雲は4日ほどで金星を一周する。地表は約465度、気圧は約92気圧で地球の水深900mに相当する
金星の大気のイメージ。高さ45〜70kmを硫酸の雲がびっしりおおい、その下に濃い二酸化炭素の大気が沈んでいます。※イメージ図(高さの比率は強調しています)

そして雲。金星をすっぽり包む白い雲の正体は、水ではなく硫酸のつぶです。この雲が太陽の光をよく反射するおかげで、金星は地球から見てまぶしく輝きます。同時にこの雲は視界をさえぎるので、望遠鏡で金星を見ても地形は見えません。表面の姿が分かったのは、雲を透かして見るレーダー観測が行われてからのことでした。

そのレーダーが描き出したのは、火山と溶岩の平原が広がる景色です。いちばん高いマクスウェル山は標高約11km——エベレスト(約8.8km)を超える高さの山が、465℃の大気のなかにそびえています。

豆知識②

金星の大気には、もうひとつ奇妙な性質があります。惑星本体は243日かけてゆっくり回っているのに、上空の雲はわずか4日ほどで金星を一周してしまうのです。風速にすると秒速約100m、自転の約60倍の速さ。これをスーパーローテーションと呼びます。なぜ大気だけがこんなに速く回り続けられるのかは長く謎で、その維持のしくみを解き明かしたのが、日本の金星探査機「あかつき」でした。

日本の「あかつき」が見た金星

「あかつき」は、2010年に打ち上げられたJAXAの金星探査機です。最初の周回軌道への投入には失敗しましたが、5年かけて軌道を立て直し、2015年12月にあらためて金星を回ることに成功しました。日本にとって、地球以外の惑星を回った初めての探査機です。

そこから8年以上にわたって金星の大気を観測し続け、スーパーローテーションが保たれるしくみの解明や、太陽系最大級の「山岳波」の発見といった成果を残しました。2024年春に通信が途絶え、2025年9月に運用終了が発表されています。打ち上げから15年。いちど失敗した探査機が、そこから最も多くのことを教えてくれた星——それが日本にとっての金星です。

  • 約12,100km直径。地球の約0.95倍で、太陽系でもっとも地球にサイズの近い惑星です。
  • 約243日1回の自転にかかる時間。しかも向きは逆で、太陽は西から昇ります。
  • 約225日1年(公転周期)。自転より短いので、1日が1年より長いことになります。
  • 約465℃地表の温度。太陽により近い水星をしのぐ、太陽系でもっとも熱い惑星です。
  • 0個衛星の数。金星には、月にあたる星がひとつもありません。

2026年9月、宵の明星を見つけよう

むずかしい話は、ここまで。金星は、この時期いちばん見つけやすい星です。日の入りのあと、西の低い空を見てください。ほかの星がまだ見えていない明るい薄暮のなかで、ひとつだけ堂々と光っているものがあれば、それが金星です。

9月19日には最大光度を迎え、明るさはマイナス4.8等に達します。いちばん明るい1等星シリウスのおよそ20個分。空が澄んでいれば、位置さえ分かっていれば昼間の青空のなかでも見つけられるほどです。(※昼間に探すときは、あやまって太陽を見ないよう十分ご注意ください。

2026年9月の金星の見つけ方の図。日の入り30分後、西から西南西の低い空、高さ10度ほどのところにマイナス4.8等の宵の明星が輝く。望遠鏡で見ると三日月のように細く欠けている
日の入り30分後の、西の空のイメージ。高さの目安は、腕をいっぱいに伸ばしたときの「にぎりこぶし1つ分」がおよそ10度です。※イメージ図(見える位置は日付・観察地によって変わります)

おもしろいのは、いちばん明るいこの時期の金星が、じつは細く欠けていることです。金星は地球より内側を回っているため、月と同じように満ち欠けをします。最大光度のころ、光って見えているのは全体の4分の1ほど。それでも地球にぐっと近づいているぶん見かけが大きく、差し引きでいちばん明るくなるのです。小さな望遠鏡があれば、三日月のような金星の姿を確かめられます。

ただし、見ごろは長くありません。金星は10月24日に「内合」——地球から見て太陽の手前を通り過ぎる位置に来ます。そこへ向けて日ごとに太陽へ近づき、10月上旬には夕空から姿を消していきます。今シーズンの宵の明星は、そろそろ見納めです。

豆知識③

内合を過ぎた金星は、今度は夜明け前の東の空にあらわれます。こちらは「明けの明星」同じ星なのに、昔の日本では夕方の金星を「ゆうづつ」、明け方の金星を「あかぼし」と呼び分けていました。1つの星が2つの名前を持っていたのは、それだけ暮らしのなかで見られていたということでもあります。

今夜、西の空に光るあのひと粒は、地球とほとんど同じ大きさで、鉛が溶ける熱さで、1日が1年より長い星。そう思って眺めると、いつもの夕空が少しだけ違って見えるかもしれません。

RODEN & SPACE

宇宙を、“遠い話”で終わらせない。

ローデンは、宇宙ミュージアム「ソラミル」の運営や、スペースポート高知への参画、スマホで月面を歩く月面歩行AR宇宙食開発や「宇宙縁日」などのイベントを通じて、宇宙を身近なワクワクに変える取り組みを進めています。

このコラムでも、宇宙やロケット、そしてミライの話を、これからやさしくお届けしていきます。