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Column ・ 宇宙のはなし

月より小さな、ハートの星。
──冥王星はなぜ「惑星」でなくなったのか

2006年8月24日、冥王星は「第9惑星」の座をおりて「準惑星」になりました。あれから20年。降格の理由と、そのあと探査機が見せてくれた、思いがけず生き生きとした素顔のはなしです。

宇宙のはなし2026.09.29読了 約9分
📖 読み方を選べます。お子さまには こども版(ふりがな) がおすすめです。

「水・金・地・火・木・土・天・海・冥」。そう覚えた方も多いはずです。ところが2006年の夏、最後の「冥」がこの並びから外れました。今年はそれから、ちょうど20年。このコラムの太陽系めぐりも、天王星と海王星を越えて、いよいよ惑星たちの「外側」へ出ます。冥王星は本当に“格下げ”されたのか。そもそも、どんな星なのか。

冥王星は、月よりも小さい

まず大きさから。冥王星の直径は約2,380km。私たちの月(約3,470km)の約3分の2しかありません。地球とくらべると約5分の1。日本列島を北海道から沖縄まで一直線に伸ばすと約3,000kmなので、冥王星はそれにすっぽり収まってしまうサイズです。

重さはさらに軽く、月の約6分の1。表面の重力は地球の約16分の1なので、体重32kgの子どもなら、冥王星ではたった2kgほどの感覚になります。地球を回る月より小さな天体が、70年以上も「惑星」と呼ばれていたわけです。

冥王星と準惑星、月、地球を同じ縮尺でくらべた図。冥王星の直径は約2,380kmで月の約3分の2、地球の約5分の1。冥王星の衛星カロンは約1,210km。エリスは約2,330km、ハウメアはラグビーボール形、マケマケは約1,430km、ケレスは約940km
冥王星と仲間の準惑星、そして月と地球を同じ縮尺でならべたところ。準惑星はどれも、月より小さな天体です。※イメージ図(色は見た目のイメージです)
豆知識①

冥王星を見つけたのは、アメリカのローウェル天文台で働いていた24歳のクライド・トンボー。1930年2月、日をずらして撮った2枚の写真を何度も見比べ、わずかに動いた小さな点を見つけ出しました。「プルート(Pluto)」という名前を提案したのは、イギリスの11歳の少女ベネチア・バーニー。日本語の「冥王星」は、星の文筆家・野尻抱影が考えた名前です。

1年が248年。いびつな軌道の旅人

冥王星が太陽を1周するのに、地球の年で約248年かかります。1930年に見つかってから、まだ1周もしていません。発見後はじめての「1周年」は2178年。いま生きている人は、だれもその日を見られない計算です。

しかもその通り道は、ほかの惑星とくらべてかなりいびつです。太陽にいちばん近いときは約44億km、遠いときは約74億km。細長いだ円を描くため、1979年から1999年までの20年間は、海王星よりも内側を回っていました。その間は、海王星が「いちばん外側の惑星」だったのです。さらに軌道面が、惑星たちの通り道から約17度もかたむいています。

冥王星の軌道を真上から見た図。細長いだ円の軌道で太陽を約248年かけて1周し、太陽にいちばん近いときは約44億km(1989年)、遠いときは約74億km(2114年ごろ)。近い点のまわりでは海王星の軌道より内側に入る。2026年の冥王星は太陽から約53億km。まわりにはエッジワース・カイパーベルトの小天体が広がる。横から見ると軌道は約17度かたむいている
太陽系を真上から見た冥王星の通り道。赤い部分が、海王星の軌道より内側に入る区間です。まわりの点々は、冥王星と同じような氷の小天体の集まりを表しています。※イメージ図(惑星・天体の大きさは実際の縮尺ではありません)

「では、いつか海王星とぶつかるのでは?」と心配になりますが、その心配はありません。海王星が太陽を3周するあいだに、冥王星はきっちり2周する——このリズムがかみ合っているため、冥王星が海王星の軌道に近づくころ、海王星はいつも遠くにいるのです。海王星とは、何十億年も前からすれ違いを続けている間柄です。

なぜ「惑星」でなくなったのか

きっかけは、1990年代から次々に見つかりはじめた“冥王星のご近所さん”でした。海王星の外側には、氷でできた小さな天体がたくさん集まる領域——エッジワース・カイパーベルトが広がっていたのです。そして2005年、その中から冥王星とほぼ同じ大きさで、重さは冥王星より約27%重い天体エリスが見つかります。

エリスを「第10惑星」にするのか。それなら、この先も似た天体が見つかるたびに惑星は増え続けるのか。天文学者のあいだで議論が起き、2006年8月24日、チェコのプラハで開かれた国際天文学連合(IAU)の総会で、史上はじめて「惑星」の定義が決められました。

惑星の3つの条件の図。①太陽のまわりを回っている、②自分の重力で丸くなれるほど重い、③通り道のまわりでずばぬけて大きい(ほかの小天体を一掃している)。地球は3つとも満たすので惑星。冥王星とケレスは③を満たさないので準惑星。小さな小惑星は②と③を満たさないので太陽系小天体
2006年に決まった「惑星」の条件。冥王星は③を満たせず、新しく作られた「準惑星」という仲間に入りました。※イメージ図

冥王星がつまずいたのは、3つめの条件です。地球や木星は、自分の通り道のまわりで圧倒的に大きく、近くの小天体を引き寄せたり、はじき飛ばしたりして“掃除”してしまっています。ところが冥王星は、同じような氷の天体がひしめくカイパーベルトの中の、大きめの一員にすぎませんでした。

つまり冥王星は、何かを失敗して降格したわけではありません。「ひとりぼっちの第9惑星」ではなく、「大家族のいちばん上のお兄さん」だったとわかった——そう言い換えることもできます。ちなみに、見つかった順番と騒動のきっかけから、エリスには「争いの女神」の名前が付けられました。

  • 1801年火星と木星のあいだでケレスが見つかる。しばらくは惑星として数えられていました。
  • 1930年クライド・トンボーが冥王星を発見。「第9惑星」になります。
  • 1978年冥王星の衛星カロンが見つかり、冥王星が思っていたよりずっと軽いことがわかります。
  • 1992年海王星の外側で、冥王星以外の氷の小天体がはじめて見つかる。カイパーベルトの存在が確かめられます。
  • 2005年冥王星級の天体エリスの発見が発表される。
  • 2006年8月24日、惑星の定義が決まり、冥王星は準惑星に。その7か月前に、探査機ニュー・ホライズンズが冥王星へ出発していました。
  • 2015年7月14日、ニュー・ホライズンズが冥王星のそばを通過。はじめて素顔が明らかになります。

探査機が見た、ハートの形の氷の平原

「凍りついた、何も起きていない星」。冥王星はずっとそう想像されてきました。表面温度は約−230℃。届く太陽の光は、地球の1000分の1ほどしかありません。

ところが2015年、ニュー・ホライズンズが送ってきた写真には、大きなハートの形をした白い地形が写っていました。その左半分は、差し渡し約1,000kmにおよぶ窒素の氷の平原。氷がゆっくりと対流していて、表面にはクレーターがほとんどありません。地質学的にはとても“若い”、いまも動いている地面だったのです。

平原のふちには、高さ数千mの山々がそびえています。材料は、なんと水の氷。−230℃の世界では、水の氷は岩のように硬くなり、山の骨組みになるのです。空にはうすい窒素の大気があり、太陽を背にすると、青いもやが何層にも重なって見えました。

豆知識②

冥王星の昼は、どれくらい明るいのでしょう。太陽の光は地球の1000分の1ほどですが、それでも満月の夜よりはずっと明るく、地球でいえば日の入りから少したったころくらい。晴れた日の夕方、空がまだほんのり明るいあの時間が、冥王星の「真昼」です。

冥王星には、衛星が5つあります。いちばん大きなカロンは直径約1,210kmと、冥王星の半分ほどもあります。あまりに大きいので、2つの天体はおたがいに同じ面を向け合ったまま、約6日9時間でくるくる回っています。冥王星のカロンに面した側から見ると、カロンは空のひとところに止まったまま、一度も沈みません。まるで手をつないで踊るペアのような、太陽系でもめずらしい組み合わせです。

冥王星の仲間、4つの準惑星

現在、国際天文学連合が準惑星と認めているのは、冥王星をふくめて5つ。ほかの4つも、それぞれに個性的です。

  • エリス直径約2,330km。大きさは冥王星とほぼ同じで、重さは上。太陽からの平均距離は約100億kmと遠く、1周に約560年かかります。表面はとても白く、光をよく反射します。
  • ハウメアものすごい速さで自転していて、1日が約4時間。その勢いで引き伸ばされ、ラグビーボールのような形をしています。2017年には、細い環を持っていることもわかりました。
  • マケマケ直径約1,430km。赤茶色の表面をしていて、1周に約300年。イースター島の神話に出てくる神さまの名前が付いています。
  • ケレスただ一つ、海王星の外ではなく、火星と木星のあいだの小惑星帯にいる準惑星。直径約940km。探査機ドーンが、クレーターの底で白く光る“塩の跡”を見つけました。
豆知識③

じつはケレスも、冥王星と同じ経験をしています。1801年に見つかったときは「新しい惑星」とされ、教科書にも載りました。ところが近くで似た天体が次々に見つかり、「小惑星」という新しい仲間に移されたのです。そして2006年、冥王星と一緒に「準惑星」に。約200年ごしに、同じ部屋に入ったことになります。

冥王星は、いまどこに?

冥王星はいま、やぎ座のあたりにいます。10月の夜8時ごろなら、南から南南西の空、高さ30度ほどのところです。ただし明るさは約14等。肉眼で見える限界(6等前後)の、さらに1000分の1以下の明るさしかなく、双眼鏡でも見えません。見るには、暗い空と大きめの天体望遠鏡が必要です。

いちばん現実的なのは、科学館や公開天文台の観望会、あるいは最近ふえてきたスマート望遠鏡で写真に撮る方法です。何日かあけて同じ場所を撮り、くらべてみると、ほかの星の中で一つだけ位置が変わった点が見つかります。それは96年前、24歳のトンボーが写真乾板の上でやったことと、まったく同じ作業です。

目で見えなくても、秋の夜、南の空を見上げてみてください。明るく光る土星の、さらにずっと向こう。光でも5時間かかる場所で、ハートの形の氷の平原が、ゆっくりと動き続けています。惑星でなくなっても、冥王星は、あいかわらずそこにいます。

RODEN & SPACE

宇宙を、“遠い話”で終わらせない。

ローデンは、宇宙ミュージアム「ソラミル」の運営や、スペースポート高知への参画、スマホで月面を歩く月面歩行AR、宇宙食開発や「宇宙縁日」などのイベントを通じて、宇宙を身近なワクワクに変える取り組みを進めています。

このコラムでも、宇宙やロケット、そしてミライの話を、これからやさしくお届けしていきます。